「悪魔に魂を売った男」 ジュゼッペ・タルティーニ 「私は、悪魔を信じているばかりでなく、それが存在する証拠を いくつもあげることができるんです。 私がこうして大きな成功を収める ことができたのは、悪魔が助けてくれたからなんで、私は感謝してる くらいです」 そこでタルティーニは、ソナタ<悪魔のトリル>ができた謂れを 話し出した。二十ニ歳のとき、彼はある夜、悪魔と契約を結んだ夢を 見た。彼は自分の魂を悪魔のい預けた、そのかわりに悪魔は三七、二十一年間 の間、彼に仕えることになった。 なにもかも、信じられないほどうまくいった。 タルティーニは(夢の中で)有名になり、金持ちになり、あらゆる面で勝利を 収めた。ある日彼は自分のヴァイオリンをとって、闇の世界の王に渡し、言った。 「こんどはあなたが、奏いてみなさい。悪魔が私、ジュゼッペ・タルティーニ よりも、もっとヴァイオリンの技法をこころえているかどうか、私はみたいんだ」 すると悪魔は奏いた____タルティーニが、かつて誰の演奏からも聞いた ことのないように奏いた。はげしく揺さぶりながら同時に哀愁をおび、 しんみりさせるかと思うと野性的であり、すばらしい美しさに満ちながら、 突き放すようなところがあった。 そこに彼が聞いたものは、心を奪う、思いきったハーモニーの連続であった。 タルティーニは感激にわれを忘れた。息もつけないくらいであった。 とたんに、彼は目がさめた。彼はベットからはね起き、ヴァイオリンを つかんで、たったいま聞いた音楽をもう一度奏いてみた。 長いパッセージをいくつもまだ正確に覚えていた。 しかしいくら必死に努力しても、悪魔が奏いでくれた全曲をまとめる ことはできなかった。 「私は覚えてるものを書き留めてみました」とタルティーニは最後に 言った。「それが、あなたもほかの人もよく私からお聞きになった <悪魔のトリル>です。 しかしあなたにはっきり言うことができます。 それは悪魔が夢の中で、奏いてくれたあのすばらしい音楽には、まだ 遠く及ばないのです」 「鍵穴から見た大音楽家」より |
ジュゼッペ・タルティーニ