いとしのレイラ 「パティ ボイド自伝」より

エリックは、その秀逸なギター・プレイでミュージシャン仲間からも絶賛されていたし、かの有名な「クラプトンは神だ」という 落書きが、ロンドン中の地下鉄駅にすでに現れていた。確かにステージを観ていて惚れ惚れする人だった。それだけ素敵で、セクシーで、 見事なプレイをしていたのだ。なのに打ち上げで会った時には、ロック・スターのような気負いはなく、無口で控えめだった。

彼は、ジョージと意気投合していた。共演し、共作し、レコーディングも一緒にしていた。当時シャーロットというモデルと付き合って いたが私に気があるのは分かっていた。そんな彼のそぶりを感じて、まんざらでもなかった。ふと彼の方を向くと、 じっと私を見つめていたり、わざわざ私の横に座ったり、私が着ている服や作った料理を褒めてくれたり、私を一生懸命に笑わせてくれたり 私と熱心におしゃべりしたりしてくれる。やはりそうされると悪い気はしない。少なくとも、ジョージはそういうことをしなくなっていた。

ある朝、フライアー・パーク、パティ・ハリソン様宛てという一通の手紙が届き、私はそれを広くて気持ちのよいキッチンで開封した。 封筒の上下には、「速達」「至急」と書かれている。中には小さな紙が入っていて、小文字のみの、ちまちましたきれいな筆跡でこう綴られていた。 「多分、君も聞き及んでいることだろうが僕の私生活は展開の早い茶番劇のようだ。どんどん堕落していく・・・・君と最後に会ったり、 話をしてから、気が遠くなるほど時間が経ったように感じる。

「小文字のエル」で始まっていて私の気持ちを確かめさせてほしいと書かれていた。 私がまだ夫を愛しているのか?それとも誰か他に恋人がいるのか?でも、何より大事なのは、私の心の中にはまだ彼がいるのか?ということだった 彼はどうしても知りたいと記し、安全な方法の手紙で連絡をくれるように迫っていた。「返事がほしい。その手紙になんて書いてあろうとも、僕の 心に安らぎをもたらしてくれるだろ・・・・愛をこめて、eより」

私は手紙にさっと目を通し、てっきりどこかの頭のおかしな奴から来たものだと思った。手紙をキッチンにいたジョージや他の人たちに見せながら私は 「ちょっと、この人変態じゃない?」と言って、みんなと大笑いしている。そしてそのまま、すっかり忘れていた。あの電話が鳴るまでは・・・ 電話はエリックからだった。「僕の手紙を受け取ってくれたかい?」

「手紙ですって?多分、受け取ってないと思うけど、どの手紙のことかしら」と言った時、謎が解けた。「あれってあなたからだったの?あなたが私のことを あんな風に思っていてくれてたなんて、全然知らなかったわ」それは今までもらったどんな手紙より情熱的で、二人の関係をそれまでとは違う局面に 向かわせるものとなった。とてもスリリングで危険な恋の戯れに駆り立てられたのだ。とはいうものの、私にとっては、まだ単なる戯れにすぎなかった。

1970年の春から夏にかけて、エリックと私は折にふれ二人っきりで会った。彼と一緒に「ケス」という映画を見に行った日のこと、映画を観たあとに、 オックスフォード・ストリートを歩いていたらエリックがこう訪ねた。「僕のこと、好きかい?それとも僕が有名人だから会ってくれてるの?」 と私は「あら、あなたが私に会うのは私が有名人だからだと思っていたわ」と答え、二人で笑った。彼は自分の気持ちをうまく伝えるのが苦手だった。 その代わりに音楽や詞に自分の感情を注ぎ込むのだ。ある時、私たちは、石畳のギルフォード大通りにある時計台の下で待ち合わせをした。

彼はマイアミから帰国したばかりで、私のためにベルボトムのパンツを買ってきてくれた。「ベルボトム・ブルース」という曲のアイディアになったパンツだ。 彼は日に焼けていて、ハンサムで、ものすごく魅力的だった。しかし私はその魅力に負けまいと抵抗しいた。 また別の時には、ユーハーストまで車で行き、ハートウッドで会ったこともある。彼は素敵なウルフ・コートに身を包み、いつもどおりすばらしくセクシーに見えた。

> エリックは、作った曲を聴いてもらいたいと言って私を家に連れて帰った。ドミノスがついにハートウッド・エッジからサウス・ケンジントンのフラットに 引っ越したので、その日の午後、彼の家には誰もいなかったのだ。テープのスイッチをオンにした彼は、ヴォリュームを上げ、最高にパワフルでそれまで 一度も聴いたことがないほど感動的な曲を聴かせてくれた。それが「いとしのレイラ」だった。自分を愛しているが、決して手には入らない女性を どうしようもなく愛する男を歌ったものである。私たちの共通の友人でもあるイアン・ダラスからもらった本にかかれていたその物語を読み、 私もイアンから同じ本をもらっていた。それは「レイラとマジュヌーンの物語」という本でペルシャの作家ニザーミーが書いたものだった。

エリックはマジュヌーンに自分の気持ちを重ね合わせ、自分の心情を私に理解させようと躍起になっていた。 彼は自宅でレコーディングしたため、ドミノスと一緒にその曲をレコーディングしたのだ。彼は、その曲を2〜3回聴かせ、その都度、 反応を確かめるために私の顔をじっと見つめていた。私の頭に最初に浮かんだことは、「ああなんてこと!これじゃ誰のことを歌っているのかバレバレじゃない」だった。

夜もふけた頃、ジョージが現れた。彼はただでさえ不機嫌なのに・・・恐ろしいことにエリックはこう切り出したのだ。

「実は白状するけど、お前の奥さんを愛してしまったんだ」

私は死んでしまいたかった。ジョージは怒り狂った。

彼は私のほうを向き、言った。「それで、君は彼と一緒に行くのか、それとも僕と一緒に来るのか、どっちだ?」

私はジョージと帰った。

エリック・クラプトン

エリックの母パットは戦後、16歳でエドワード・フライヤーというカナダ人の空軍中佐との間に彼を産んでいる。 エドワードは、既婚者で、パットと赤ん坊のエリックを残して妻のもとへ帰国。パットの母ローズと継父であるジャック・クラップが彼女の援助をしたが、 1940年代当時、非嫡子は社会的に受け入れられなかった。母であるパットは、フランク・マクドナルドなる人物出会い結婚と幼い息子とのあいだで 選択を迫られ結婚を選ぶ。後に3人の子供を産んでいる。
エリックは、リプリー村の祖父母の元に残された。祖父母は体制をとりつくろうために彼を自分たちの子供として育て、産みの親である母のことを姉だと信じこませた。 「クラプトン」という名は、ローズ(祖母)の亡くなった最初の夫の名である。エリックが9歳の時にようやくパットが戻ってきて、彼女が実の母であることを知った彼は、腹を立てた。
多分その時の怒りを内面に抱えていて、それが女性との関係に影響を及ぼしていたように見える。 彼は女性を信用しなかったし、女性とのプラトニックな友情など理解できなかった。セックスを伴わない関係など、意味がないと思っていたのだ。 パティは言う。「私の交友関係にも狭量だった。彼から私の注意をそらせる者なら誰にでも異常なまでに嫉妬した。私の家族にも例外ではなかった。」 13歳でギターを手にしたエリックは、自己表現するための完璧な手段を発見していた。


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レイラアルバム 収録曲 無料音源 (on youtube)

1. アイ・ルックド・アウェイ I Looked Away
2. ベル・ボトム・ブルース   Bell Bottom Blues 
3. キープ・オン・グロウイング Keep On Growing    
4. だれも知らない  Nobody Knows You When You're Down And Out
5. アイ・アム・ユアーズ I Am Yours    
6. エニイデイ Anyday
7. ハイウェイへの関門 Key To The Highway    
8. テル・ザ・トゥルースTell The Truth   
9. 恋は悲しきもの Why Does Love Got To Be So Sad?   
10.愛の経験 Have You Ever Loved A Woman   
11.リトル・ウィング Little Wing    
12.イッツ・トゥー・レイト It's Too Late   
13.いとしのレイラ Layla    
14.庭の木 Thorn Tree In The Garden 

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